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Last updated Mar. 12, 2008
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comp -MYPEDIA Math- ラプラス変換 Laplace transform 1 概要 ラプラス変換とは、[0, ∞) で定義される実関数 f(t) を、複素関数 F(s) に変換する 写像の一種である。 ラプラス変換によって変換された関数 F(s) と元の関数 f(t) は一対一に対応する ため、ラプラス変換後の世界で等式を変形した後、ラプラス変換前に戻すという操 作をした場合でも、等号は成り立つことが担保されている。なお、s は複素数であ ることに注意する。 ちなみに、ラプラス変換された関数は Re(s) ≥ 0 で収束し、何回でも微分可能で ある。なお、確率論の積率母関数1は密度関数のラプラス変換のことである。 ラプラス変換の最大の利点は、元の世界における微分操作 d dt f(t) がラプラス変換 後の世界では sF(s) + (定数) に相当するため、n 階微分など扱いにくい操作を比較 的簡単な操作に代えることができる点である。この性質を使うと定係数 n 階線形常 微分方程式、すなわち微分がすべて 1 乗かつ変数が 1 つの微分方程式はラプラス変 換を用いて必ず解くことができる。また、当然であるが、微分操作の逆である積分 操作についてもラプラス変換を用いると簡単な操作に代えることができる。 さらに、元の世界における畳み込みの操作が、ラプラス変換後の世界では単純な 積によって表されるため、扱いやすくなる。 記号は L[f(t)] = F(s) のように L を用いる。 2 定義 ラプラス変換の定義は次の通り。 ラプラス変換の定義 区分的に連続 (不連続点が有限個) な関数 f(t) について F(s) = L[f(t)] = ∫ ∞ 0 f(t)e−stdt がある s について収束するとき、F(s) を f(t) のラプラス変換という。 1積率母関数 . . 1 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- なお、積分区間は 0 からでなくともよいが、−∞ で値を持ってしまうような関数 はラプラス変換が発散してしまうため使えないらしい。 逆ラプラス変換の定義は次の通り。 逆ラプラス変換の定義式 f(t) = L−1[F(s)] = lim p→∞ ∫ c+ip c−ip F(s)estds 3 性質 3.1 線形性 ラプラス変換は積分により定義されるので、積分同様に線形性がある。 L[a · f(t) + b · g(t)] = aF(s) + bG(s) 3.2 微分の変換は s 倍 ラプラス変換は、定数項を無視すれば微分操作を s 倍に変換し、扱いやすくする。 L [ d dt f(t) ] = sF(s) − f(0) 2 階微分では L [ d2 dt2 f(t) ] = s2F(s) − sf(0) − f (0) 一般に n 階微分では L [ dn dtn f(t) ] = snF(s) − n−1 ∑ k=0 sn−k−1f(k)(0) 1 階微分についての証明は以下の通り。 L [ d dt f(t) ] = ∫ ∞ 0 ( d dt f(t) ) e−stdt (∵ 定義より) = [ f(t)e−st ]∞ 0 −f(0) +s ∫ ∞ 0 f(t)e−stdt F(s) (∵ 部分積分) = sF(s) − f(0) 2 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- また、2 回微分以降については以下のような変形で確認できる。 L [ d2 dt2 f(t) ] = L [ d dt f (t) ] = sL[f (t)] − f (0) = s2L[f(t)] − sf(0) − f (0) 3.3 積分の変換は 1 s 倍 微分操作が s 倍に相当するのに対し、その逆である積分操作は 1 s 倍に相当する。こ の性質から、ラプラス変換が積分方程式についても利用可能であることがわかる。 L [∫ t 0 f(u)du ] = 1 s F(s) この証明は微分の際と同様に部分積分でできる。 L [∫ t 0 f(u)du ] = ∫ ∞ 0 ∫ t 0 f(u)du · e−stdt (∵ 定義より) = − 1 s [∫ t 0 f(u)du · e−st ]∞ 0 0 + 1 s ∫ ∞ 0 f(t) · e−stdt F(s) (∵ 部分積分) = 1 s F(s) 3.4 s 領域における移動 F(s − a) の逆ラプラス変換は次のようになることがわかっている。すなわち、s 領 域における a の移動は t 領域では eat 倍に相当することがわかる。 L−1[F(s − a)] = eat · f(t) 3.5 t 領域における移動 f(t − a) のラプラス変換は次のようになることがわかっている。すなわち、t 領域 における a の移動は s 領域では e−as 倍に相当することがわかる。 L[f(t − a)] = e−as · F(s) 3 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- 3.6 最終値の定理 t 領域において最終値を求める、すなわち t → ∞ という操作は、s 領域において s 倍して s → 0 という操作に相当する。 lim t→∞ f(t) = lim s→0 sF(s) 3.7 初期値の定理 t 領域において初期値を求める、すなわち t → 0 という操作は、s 領域において s 倍して s → ∞ という操作に相当する。 lim t→0 f(t) = lim s→∞ sF(s) この証明は、f (t) についてのラプラス変換を定義により表し、f(0) について解く ことで得られる。 3.8 畳み込みを積に変換 t 領域における畳み込み2は、s 領域では通常の積に相当する。そのため、ラプラ ス変換を行うことにより、畳み込みの積分計算を扱いやすくし、計算の指針を立て ることができる。 L[f ∗ g(t)] = L [∫ t 0 f(u)g(t − u)du ] = F(s)G(s) 4 ラプラス変換対応表 ラプラス変換の対応表を表 1 に示します。 ここで t 領域における関数は基本的に区間 (−∞, 0) で 0 であると見なしているよ うである。ただし、f(t − a) については t > a で f(t − a)、t < a で 0 を取るとして いる。 また、ここにある δ(t) は、t = 0 で ∞ を取りそれ以外では 0 となるような関数、 ディラックのデルタ関数3のことである。 2畳み込み . . 3ディラックのデルタ関数 . . 4 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- 5 微分方程式の解法 5.1 解法と例題 ラプラス変換は微分方程式を解く方法として用いられる。特に定係数線形常微分 方程式については次のステップで必ず解くことができる。 1. 両辺をラプラス変換 2. 求めたい関数について解く 3. 右辺を部分分数分解 (ヘビサイド展開) 4. 部分分数展開された各項を逆ラプラス変換 以下に例題を挙げる。 例題 1) d dt y(t) + y(t) = 1(t), y(0) = 2 を解く d dt y(t) + y(t) = 1(t) sY (s) − y(0) + Y (s) = 1 s (∵ ラプラス変換) Y (s) = 2 s + 1 + 1 s(s + 1) (∵ Y (s) について解いた) ここで 1 s(s+1) を部分分数分解したいので 1 s(s + 1) = C1 s + C2 s + 1 1 s + 1 = C1 + s · C2 s + 1 (∵ 両辺 s 倍) ここで s → 0 とすると右辺第 2 項が消えて 1 = C1 同様に −1 = C2 よって Y (s) = 2 s + 1 + 1 s + −1 s + 1 Y (s) = 1 s + 1 s + 1 y(t) = 1(t) + et (∵ 逆ラプラス変換) 5 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- 例題 2) d2 dt2 y(t) + 3 d dt y(t) + 2y(t) = sin t, y(0) = y (0) = 0 を解く (s2 + 3s + 2)Y (s) = 1 s2 + 1 (∵ 与式をラプラス変換) Y (s) = 1 (s2 + 1)(s2 + 3s + 2) = 1 (s + i)(s − i)(s + 1)(s + 2) 部分分数分解後を考えると 1 (s + i)(s − i)(s + 1)(s + 2) = C1 s + i + C2 s − i + C3 s + 1 + C4 s + 2 C1 = −3 + i 20 (∵ s + i 倍して s → −i) C2 = −3 − i 20 (∵ s − i 倍して s → i) C3 = 1 2 (∵ s + 1 倍して s → −1) C4 = −1 5 (∵ s + 2 倍して s → −2) よって Y (s) は Y (s) = −3 + i 20 · 1 s + i + −3 − i 20 · 1 s − i + 1 2 · 1 s + 1 + −1 5 · 1 s + 2 y(t) = −3 + i 20 · e−it + −3 − i 20 · eit + 1 2 · e−t + −1 5 · e−2t (∵ 逆ラプラス変換) = 1 20i (eit − e−it) + −3 20 (eit + e−it) + 1 2 · e−t + −1 5 · e−2t (∵ i で整理) = 1 10 sin t + −3 10 cos t + 1 2 · e−t + −1 5 · e−2t (∵ オイラーの公式4) = √ 1 10 sin(t − ϕ) + 1 2 e−t − 1 5 e−2t (∵ 三角関数の合成) (ただし tan ϕ = 3) 4オイラーの公式 . . 6 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- 5.2 解く際の注意点 ラプラス変換を用いて微分方程式を解く際の注意点を以下に列挙しておく。 • sin at, cos at の処理 sin at, cos at が同時に出てきたときは三角関数の合成でひとつの sin(at + ϕ) に 合成することで式が見やすくなる。三角関数の合成については三角関数の項目 を参照5。 • 指数に虚数を含む場合 e の指数に虚数単位 i を含む場合は、オイラーの公式を用いて sin at や cos at に 変換することで見やすい解を得られる。 • 部分分数分解 (ヘビサイド展開) に関する注意 部分分数分解の際の詳しいやり方については、ヘビサイド展開定理6を参照。 5三角関数 . . 6ヘビサイド展開定理 . . 7 Math 一覧へ . . comp -MYPEDIA Math- 表 1: ラプラス変換対応表 t 領域 s 領域 t 領域 s 領域 1(t) 1 s af(t) + bg(t) aF(s) + bG(s) t 1 s2 f(at) 1 a · F ( s a ) tn n! sn+1 eatf(t) F(s − a) eat 1 s−a f(t − a) e−saF(s) sin at a s2+a2 f (t) sF(s) − f(0) cos at s s2+a2 f (t) s2F(s) − sf(0) − f (0) sinh at a s2−a2 f(n)(t) snF(s) − ∑ n−1 k=0 sn−k−1f(k)(0) cosh at s s2−a2 ∫ t 0 f(u)du F(s) s t sin at 2as (s2+a2)2 ∫ t 0 f(u)g(t − u)du F(s)G(s) t cos at s2−a2 (s2+a2)2 −tf(t) F (s) sin at t tan−1 a s (−t)nf(t) F(n)(s) δ(t) 1 f(t) t ∫ ∞ s F(u)du 8 Math 一覧へ . .